期末試験の結果が出ました。 二年 白子 和哉

カズヤは激怒した。必ずかの数学の単位を取らねばならぬと決意した。カズヤには数学がわからぬ。カズヤは應援部員である。声を出し、様々な団体の応援に駆けつけた。けれども単位に関しては人一倍敏感であった。今日未明カズヤは家を出発し、野を超え山を越え、40キロ離れたこの国立市にやってきた。カズヤには竹馬の友がいた。ケイスケンティヌスである。おなじ應援部で、おなじ数学の授業を受けている仲間だ。授業が終わり次第会う予定になっている。大学構内を歩いているとカズヤはあることに気づいた。普段は賑やかなキャンパスが、その日はやけに静かなのだ。若い衆に何があったのか尋ねようとしたが無視されてしまった。カズヤはだんだん不安になり教務課を訪ねた。教務課の方は冷静な口調で答えた。

「今日は試験の日です。」

カズヤは焦った。なぜなら学生証を持っていなかったからだ。学生証がなければ試験を受けることはできない。カズヤは教務課の方に学生証なしで試験を受けて良いか尋ねた。答えはノーであった。カズヤは何度も何度も教務課にかけ合った。しかしいくら求めても答えは変わらない。教授が許可を出さないそうだ。

「おどろいた。教授はご乱心か。」

「いいえ。生徒を信ずることができぬというのです。」

これを聞いてカズヤは激怒した。「呆れた教授だ。」

カズヤは単純な男であった。教授のところにいき、試験を受けさせてもらうよう直訴した。

「ダメだ。許可できない。」

「なぜだ。」

「学生は信用ならんからだ。私がかつて所属していた大学では学生の不正が横行していた。一番悪質だったのは替え玉受験だ。お金を払って頭のいい人に代わりに試験を受けてもらう。正しく学ぼうとする学生のために行う神聖な試験の場において、これ以上の冒涜はない。」

「私はそんなことはしない。もしそんなことをするくらいなら、退学した方がましだ。」

「ふん、口ではどうとでも言える。どのみちお前は試験を受けられない。」

「ならば一つ賭けをしよう。試験終了前に私は教授の元に直接解答用紙を届ける。そうすれば私が替え玉受験をしていない証拠になるだろう。」

「そんなもの試験終了まで席に座っていれば、解答用紙は試験官に自動的に回収され、お前の不正は隠蔽できてしまう。」

「ならば試験終了時までに出さなければ私は落単でいい」

教授はこの学生の自信をいぶかしく思った。

「ならばお前が終了までに提出しなかった場合、お前以外の全ての学生を落単にしてやろう。その代わりお前には単位をやろう。」

「・・・わかりました。」

「ふん。じっくり問題に取り組むがいい。試験終了が来ればお前は勝手に単位が手に入る。」

カズヤは口悔しく、地団駄を踏んだ。ものも言いたくなくなった。

 

試験が始まった。カズヤは一問二問と順調に解いていった。このペースなら十分に試験終了前に提出できる。そう思った時であった。

「・・・わからない」

最後の最後に全く解くことのできない問題に当たった。カズヤはひどく狼狽した。このままでは我が盟友ケイスケンティヌスが単位を落としてしまう。カズヤは時計を見た。難問に手をつけてからすでに10分は経過している。カズヤは焦った。しかし焦るほどに頭は混乱していく。

20分が経過した。もう試験を終え、提出も済ませた学生がちらほらいる。しかし今だに解答の糸口すら見つからない。カズヤの精神は限界に達していた。もうどうにでもなれ。應援部員に不似合いなふてくされた根性が心の隅に巣食った。試験が終了すれば単位はくる。私は精一杯やったのだ。試験終了まで寝ていればいい。カズヤは突っ伏した。

ふと耳をすますと、問題を解こうと懸命に鉛筆を走らせている音が聞こえた。顔をあげるとそれはケイスケンティヌスであった。ああ、私はバカだった。こんなにも懸命に頑張っている人を裏切ろうとしてたのだ。時計に目をやる。まだ時間はある。問題を見た。解ける気がした。解こう。希望が生まれた。義務遂行の希望である。頑張る人を見捨てるわけにはいかない。私の単位など問題ではない。先ほどのは何か悪い夢だ。私はがんばる人の味方でなければならぬのだ。解け! カズヤ。

カズヤはやり遂げた。見事に提出した。皆の単位は守られたのだ。

「君の勝ちだ。ありがとう。おかげで目が覚めた。信実とは決して空虚な妄想ではなかった。」

教授はカズヤと熱い握手を交わした。カズヤは使命を果たしたのだ。

後日彼の家に手紙が届いた。単位を落とした。赤点であったのだ。カズヤはひどく赤面した。

 

ということで、

・試験の際には学生証を忘れないようにしましょう。

・わからないことがあったら教務課に行きましょう。丁寧に対応してくださいます。

・授業によって違いはありますが、試験終了前に退出できることは覚えておきましょう。

・単位を落とさぬように普段から勉強をしましょう!

・應援部の友情はカズヤとケイスケンティヌスのように固いものです!!

・應援部は頑張っている人の味方です!!

 

以上、物語の主人公カズヤこと二年生の白子和哉から新入生に知っておいてほしいことでした。みんな数学の単位はしっかり取ろう!

次回は同じ商学部の河野さんにお願いしたいと思います。

河野さん、宜しくお願い致します。